はじめに
野球を頑張っているお子さまの中で、
「最近、肩が痛いと言うようになった」 「投げると違和感がある」
そんなサインはでていませんか?
成長期の肩は、大人よりもずっとデリケートです。
実は、正しい知識があれば、多くの投球トラブルは予防することができます。
このブログでは、
- 投球障害肩とは何か
- なぜ起こるのか
- ご家庭でできる予防法
をわかりやすくお伝えします。
成長期の投球障害肩とは?
ボールを投げる動きは、腕だけで行っているようにみえて、実は
- 足
- 股関節
- 体幹(お腹・背中)
- 肩甲骨
- 腕
これらが連動して、はじめてスムーズな投球になります。
しかし、
- 同じ動作を何度も繰り返す
- 体の使い方が上手く繋がっていない
- 疲れていても無理をする
このような状態が続くと、肩に大きな負担がかかり、痛みや違和感を引き起こします。
これが一般的にいう「投球障害肩」です。
成長期特有のリスク
子どもの骨には「骨端線(成長線)」という部分があります。
この部分は、弱く繰り返し負担がかかることで傷つきやすいのが特徴です。
無理な投球が続くと、成長期に起こりやすいケガの一つが
👉 リトルリーガーズショルダー(上腕骨近位骨端線離開)です。
リトルリーガーズショルダーとは
リトルリーガーズショルダーは、投球動作を繰り返し行うことで骨に引っ張り、ねじれなどのストレスが加わり、上腕骨の骨端線が離れる(離開)疾患のことを言います。
発症年齢は10~14歳くらいまでで、特に12歳前後に多い傾向があります。
9~12歳の少年野球選手2,055名を対象とした大規模調査では、約13%の選手が肩の痛みを経験していたことが報告されています。さらに、その中にはレントゲン検査によってリトルリーガーズショルダーと診断された選手が15例、確認されています。
Epidemiology of shoulder injuries in young baseball players and grading of radiologic findings of Little Leaguer’s shoulder
症状
- ボールを投げた時の肩の痛み
- 肩や腕の付け根を押した時の痛み
初期の段階では「少し痛いだけ」「違和感がある程度」と軽く考えられてしまうことも多く、我慢しながら投げ続けてしまうケースも少なくありません。
診断

一般的に、レントゲンでの骨端線の開き(離開)や拡大の程度を判断して行います。
この時に大切なことは、骨の成長は個人差が大きいため、左右を撮影しての比較が必要です。
また、経過を追って撮影していくことで傷ついている部分の治り具合やズレ(転位)の程度を診ていきます。
さらに、
- 肩や腕の付け根を押したときの痛み
- 腕を挙げた状態で肩を後ろにひねったとき(外旋)の痛み
も、重要な判断材料となります。
治療
リトルリーガーズショルダーの治療は、まずは安静(投球禁止)です。
ただし、安静期間は「何もしない時間」ではありません。
この時期に、肩関節や肩甲骨まわり、股関節、背中の柔軟性や動きの改善に取り組むことで、再発しにくい身体づくりを行うことが重要です。
投球再開の目安は、
- 痛みが完全になくなっていること
- 筋力や柔軟性が改善していること
- 投球フォームが改善されていること
これらがそろってからが基本となります。
症状の程度にもよりますが、多くの場合、1か月ほどで痛みはなくなり、約3か月で治癒するとされていますが、再発することも多いです。
野球に復帰後も定期的(1ヶ月後、3ヶ月後ぐらいまで)に経過を追っていくことが大切です。
実際、担当した多くのお子さまは、「我慢して投げ続けた結果、痛みが強くなり」受診される方が多い印象です。
中には、「少し痛かったけど、試合があるから」と無理を続けてしまい、復帰まで半年以上かかってしまったお子さまもいました。
今振り返ると、初期の違和感の段階で対応できていれば、防げたケースだったと感じています。
「まだ子どもだから大丈夫」ではなく、成長期だからこそ注意が必要なのです。
投球動作と肩にかかる負担
投球動作は、大きく6つの動き(フェーズ)に分かれています。

その中でも,
「コッキング期(腕を後ろに引く)〜加速期(前に振り出す)」と呼ばれる場面で、肩には大きな負担がかかります。
このとき、
胸を大きく張る時(コッキング期〜加速期)
腕を後ろに大きく引いて、弓矢のようにしならせる場面
→この時、肩の前側には強く引っ張られる力がかかります。
ボールをリリースする瞬間(加速期)
腕が最大のスピード振る場面
→肩のインナーマッスル(腱板)が必死に腕を支えようとします。
腕を振り下ろした後(フォロースルー期)
振り抜いた腕に急ブレーキをかける場面
ここで肩の筋肉や関節に、強い「圧縮」や「ねじれ」の力が加わります。
といったことが動きの中で起こっています。
これらの負担が繰り返されることで、
- 炎症
- 可動域の低下
- 慢性的な痛み
に繋がります。
投球障害を起こしやすい身体的な原因
肩や肘を痛めやすいお子さまには、次のような特徴がよく見られます。
① 投球フォームの乱れ
- 下半身・体幹・腕がうまく連動しない
- 肘が下がる
- 手投げになっている
② 可動域の低下
- 股関節が硬い
- 肩甲骨、背中(胸椎)が動きにくい
③ 筋力不足
- 体幹、肩甲骨周りが安定しない
- 肩のインナーマッスル(腱板)が弱い
ここで大切なのは、
「肩が悪い=肩だけの問題ではない」ということです。
投げ方・姿勢・関節可動域の低下などが原因になっていることがとても多いのです。
私が臨床で成長期の投球障害肩のお子さまを診てきて、多くに共通して感じるのは、「股関節の柔軟性の低さ」です。
股関節は、身体の中でも特に動きの自由度が高く、投球動作において下半身の力を上半身へ伝える重要な役割を担っています。
しかし、この股関節が硬くなると、姿勢や動きのバランスが崩れやすくなり、全身の連動がうまく働かなくなります。
その結果、本来は下半身から生み出されるはずの力を十分に使えず、腕や肩だけに頼ったいわゆる「手投げ」のフォームになりやすくなります。
この状態が続くことで、肩への負担が集中し、痛みにつながってしまうのです。
つまり、投球障害肩の予防には、肩だけでなく、特に股関節の柔軟性や使い方が非常に重要だといえます。
肩に負担が集まりにくい体をつくることが、痛みの予防につながります。
ご家庭でできる予防チェック
ご家庭でも簡単にできるチェック方法をご紹介します。
※痛みが出る場合には無理行わないでください。
⚫︎肩周り・腕のチェック
・肩を内にひねる(内旋)、腕を内に回す(回内)
腕を回して体の前で合わせた時、両方の小指がピタリとつくか確認しましょう。

・肩を外にひねる(外旋)
棒を写真のように持ち、胸を張ったり背中を丸めたりした時に肩に張り感や痛みがでないかどうかを確認しましょう。

・肩甲骨の動き
両手を頭の後ろに置き、肩甲骨を寄せます。
左右差や、片側だけ動きにくい感じがないかを確認しましょう。

・広背筋の硬さ
両肘を合わせた状態で腕を上げていき、肘の位置が鼻よりも高い位置になるかどうかを確認しましょう。

⚫︎体幹のチェック
・背中の動き
四つ這いの姿勢になり、片手を頭の上に置き、体を開いていきます。
そのときに下の手と上の肘を結んだ線が地面と垂直にできるかどうかを確認しましょう。

⚫︎下半身のチェック
・股関節の動き
開脚をして、膝を伸ばした状態で頭をつけることができるかどうかを確認しましょう。

・足首の動き
両腕を腕の前に置いてしゃがみます。踵を上げずに、座ることができるかどうかを確認しましょう。

予防のためのコンディショニング
※痛みが出る場合には無理行わないでください。
⚫︎キャット&ドッグ(背中・肩甲骨の動き改善)
- 四つ這いになり、手は肩の真下、股関節は90°にします。
- お腹をのぞきこむように背中を丸めます。
- 肩甲骨を寄せて、背中を反ります。

⚫︎トランクローテーション(背中の動き改善)
- 横向きに寝て、股関節を90°に曲げ、下側の手で上の膝を押さえます。
- 上側の腕を、大きな円を描くように頭の上を通って後ろへ開いていきます。

⚫︎広背筋ストレッチ(脇周囲)
- 四つ這いになり、手は肩の真下、股関節は90°にします。
- 肘を90度に曲げて床につけ、手のひらを上に向けます。
- お尻をかかとの方へ引きながら、胸を床に近づけ、脇の下から背中を伸ばします。

⚫︎スリーパーストレッチ(肩の後方)
- 横向きに寝て腕を90°に曲げ、上側の手で腕を床方向へゆっくり倒していきます。

⚫︎ジャックナイフストレッチ(モモ裏)
- 上体を倒し、太ももとお腹をつけた状態で膝の曲げ伸ばしを行います。
※太ももとお腹が離れないように行いましょう。

まとめ
投球障害肩は、ある日突然起こるものではありません。
多くの場合、
- 投げすぎ
- 投球フォームの乱れ
- 柔軟性や筋力の低下
などが重なり、少しずつ肩に負担がたまって起こります。
特に成長期のお子様は、骨や関節がまだ成長途中のため、大人以上に注意が必要です。
そのため、
- 体の柔らかさや筋力を保つこと
- 日頃からチェックを行うこと
- 痛みや違和感を我慢しないこと
がとても大切になります。
「少し変だな」「いつもと違うな」と感じたときに、早めに気づき、対応することで、大きなケガは防ぐことができます。
ご家庭でのケアと周囲のサポートが、お子さんの野球人生を長く、楽しいものにします。
これからも安心して野球に取り組めるよう、日々の体づくりとコンディション管理を大切にしていきましょう。

執筆者:中島 惇
Astushi Nakashima
至学館大学健康科学部健康スポーツ学科卒業
日本鍼灸理療専門学校本科卒業
花田学園AT専攻科修了合学科卒業
鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師

