バレエダンサーに多い“足首のトラブル”はなぜ起きる?原因と予防のポイント

バレエは身体をたくみに動かすことによって生まれる、素晴らしい表現芸術です。

一方で見た目の美しさとは裏腹に、足部・足関節にとても大きな負担がかかる踊りです。

「足首をひねりやすい」「ルルベが不安定」「足裏が痛くなる」といった相談は、多く聞かれます。

しかし、同じような動きをしていても「痛くなる人」と「痛くならない人」がいるのはなぜでしょうか?

それには、足首そのものよりも“体の使い方”の違いが深く関係しているかもしれません。

今回は、バレエで多い足首のトラブルについて、原因と予防法をわかりやすく解説します。

目次

バレエで起きやすいケガについて

バレエでは以下のような足・足首のケガがよく起こります。

① 足関節捻挫(内返し捻挫)

足首の関節を内側に捻る(ひねる)ことによる外側の靭帯の損傷。

バレエではルルベでの不安定さやジャンプの着地などで発生しやすく、繰り返すと足首が緩くなり、慢性的な痛みにつながることがあります。

② 足底腱膜炎

足裏のアーチを支える足底腱膜に負担がかかりすぎて炎症が起きる状態。

ジャンプの着地やプリエ、アーチの低下などが主な原因です。

③ 三角骨障害(後方インピンジメント)

足首の後ろにある余分な骨(=三角骨)が足首を伸ばした(底屈)ときに、挟み込まれて痛みが出る状態。

ルルベなどで足首を伸ばす動作の繰り返しで発症します。

※ 三角骨があっても発症しない場合もあります。

④ アキレス腱炎

ふくらはぎ(下腿三頭筋)の使いすぎや、足首を曲げる動き(背屈)の制限があることでアキレス腱に過度な負担が集中し、炎症が起きます。

  • ルルベの上げ下げ
  • プリエの繰り返し

などで症状が出やすいです。

⑤ 中足骨疲労骨折

ルルベやポワントの際に中足骨の長軸方向に圧縮力が加わり、これを繰り返すことで骨が少しずつ傷んでくるとされています。

アーチの低下や足趾の踏ん張りすぎが背景にあるケースも多く見られます。

バレエで足・足首のケガが多い理由

足・足首のケガは、その部位だけの問題ではなく、股関節や体幹など、全身の連動性がないことで引き起こされることがあります。

① バレエ特有の負荷が大きい

ルルベ・ポワント・片脚立ちなど、小さな面で大きな荷重を支える動きが多く、足首に高い安定性が求められます。

② 外側荷重になりやすい

ターンアウトやラインを意識するあまり、股関節の内転(内に閉じる)が弱く、代わりに内旋(内に捻る)が入りすぎてしまい、膝から下が外側に流れ、足首に負担が集中します。

③足首の硬さによる衝撃が吸収できない

足首を背屈(曲げる動き)が制限されることで、プリエやジャンプの着地で深く曲げることができず、衝撃を十分に吸収できません。結果として、足首に過剰な負荷が集中してしまいます。

④ 体幹の不安定性による代償

脚を後ろに伸ばす動作(アラベスクなど)で股関節の伸展(後ろに伸ばす)が不足すると、多くのダンサーは腰を反らせて(反り腰)代償しようとします。これにより体幹の軸が不安定になり、その不安定さを補おうとして足首に余計な力が入り、ケガの原因となります。

足・足首に負担がかかる動き

① 片脚に乗った時のふらつき

股関節で体重を受けられないと、足の外側に倒れ込みやすくなります。

②プリエの時に足首が詰まる

股関節を曲げられない → 足首だけでしゃがむ → 背屈(曲げる動き)制限により外側に逃げる

この連鎖で足首の負担は増します。

③ターンで足首だけで回ろうとする

股関節・体幹が使えないと、足首で方向を変えようとし、ねじれによる負担が蓄積していきます。

ケガを起こさないための予防法

ケガを予防するには、「足首だけを鍛える」のではなく、股関節の使い方、体幹の安定、そして全身の連動性を高めることが不可欠です。

①体幹・肩甲帯の安定

・脊柱を引き伸ばす(エロンゲーション)の意識

頭頂部から糸で引っ張られているような感覚で、脊柱を長く引き伸ばす意識を持つことが、安定した軸を作ります。体幹が安定すると、足首への負担が減ります。

[バードドッグ]

・四つ這いにになり、対角線の腕と脚を伸ばします。

※頭から背中まで一直線になるように意識します。

・肩甲帯の安定と前鋸筋

 腕の動きの土台となる肩甲帯を安定させ、特に脇の下にある前鋸筋を意識して使うことで、上半身の引き上げが安定し、ルルヴェやターン時の軸がブレにくくなります。

[前鋸筋エクササイズ]

・四つ這いになり、肩が力まないように床を押しながら背中を丸めます。

②股関節と足首の強化・柔軟性の確保

・内転筋群の強化

内旋(内に捻る)を防ぎ、正しい内転の動き(脚を閉じる力)を使えるように、内転筋群を強化するエクササイズを取り入れましょう。これにより、股関節から正しいアン・ディオールを使えるようになります。

[内転筋エクササイズ]

・仰向けになり、内ももにボールを挟みます。

・もも全体でボールを潰します。

・ 足首の柔軟性の確保

足首の背屈(曲げる動き)の可動域を十分に確保します。深いプリエができるようになり、着地時の衝撃吸収能力が向上します。

[足首モビリティエクササイズ]

・片膝立ちになり、足首を後方に押し込み踵が浮かないように膝を前に倒していきます。

※膝とつま先は真っ直ぐになるように行います。

まとめ

足部・足関節は、バレエのあらゆる動きの基盤となる重要な部位です。

つま先立ち・ジャンプ・方向転換など、バレエ特有の動作が重なることで、どうしても負担が蓄積しやすく、ケガにつながりやすいです。

しかし、動きのクセを理解し、正しい使い方を身につけることで、多くのトラブルは予防することができます。

ここで紹介した予防方法はあくまで一例であり、実際には一人ひとりの体の状態や習慣、関節の可動域、筋力などに合わせて対策を選ぶことが最も大切です。

「なぜ痛くなるのか?」を知り、自分の身体に合ったケアと体の使い方を身につけることが、長くバレエを楽しむための鍵となります。


執筆者:中島 惇
Astushi Nakashima


至学館大学健康科学部健康スポーツ学科卒業
日本鍼灸理療専門学校本科卒業
花田学園AT専攻科修了合学科卒業

鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師

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